book.10nchan...本のやしろのなかへ.

本や漫画小説を読んでいくブログです。伝統文化や興味のある分野の発信も随時行います!短編小説も書いていきます。よろしくお願いします。It is a blog that will read books and manga novels. We will also send out traditional culture and fields of interest to you at any time! Thank you.

Photo 春 「卒業」

 

  ああ

  今年で何度目の卒業だろう

  私たちが迎えてきた卒業には

  様々な意味が含まれている

  

  キーンコーンカーンコーン…授業の終わるチャイムの音

  今日は卒業式前日

  春の陽気に誘われて

  黄色の蝶々が空を優雅に舞っていた

 

  モンキチョウ

  珍しいものを見たと私は思い

  視線の先には

  白い猫?

 

  いや、白い羊

  そう私たちのいる学校には

  猫も鶏も羊もいる

  農業高校だ

 

  午前だけのホームルームを終え

  私はいち早く教室から走りでる

  それはいつものこと

  小走りの私を追いかけるように

 

  友達のゆうこが追いかけてきた

  待ってよー!ようこ!

  追いついたゆうこは息を弾ませ

  少しだけ苦しそう

 

  ほけーとゆうこの顔をみる私を

  ゆうこは不思議そうに覗き込む

  どうしたのさ、ぼーとしちゃってさ

  私は我に帰り

 

  なんでもないよと一言

  ゆうこの天真爛漫さを

  私は妬むでもなく羨むでもなく

  ただただ尊敬していたのだった

 

  ゆうこはすごいなあ

  そう思いながら見つめる私に

  ゆうこは微笑みを投げかける 

  ようこ!明日はついに卒業だね

 

  こくんと頷き私は空を仰ぐ

  もう卒業かあ

  でももう何度もしてきたから

  実感湧かないや

 

  農業に卒業はない

  一生自分は農業から卒業しない

  そんな気持ち

  目指す先は美味しいお米作り

 

  営農組合を立ち上げ

  耕作放棄地を買取

  みんなで農業を応援していく

  そんな夢

 

  まだまだ先かもしれないけれど

  私にはそんな野望があった

  ゆうこはその夢を

  一番になって応援してくれてる

 

  というのも、ゆうこは

  食品心理学関係のコースだった

  私の作る作物の美味しさを

  ゆうこは知っていた

 

  ようこの作る野菜たちっていつも笑顔

  かわいいし美味しいし言う事なし

  だって知ってる?野菜って水分でできてるでしょ?

  水はね感情や発する言葉によって変化するんだよ

  

  私は素直に驚く

  私はいつも野菜たちに声をかけていた

  それを知ってか知らずかゆうこはそう言ったのだった

  ねえ、ようこ、ようこの畑行こうよ!

 

  さっそくゆうこは

  満面の笑みで私を誘う

  もちろんとういう意味を込めて

  私もニコっと笑った

 

  今は春

  少し肌寒さが残る

  小春日和の今日

  天気がいい

 

  ふわふわ

  ぽかぽか 

  のんびり

  そんな空気

 

  この空気にゆうこは似合う

  そう思う私を後ろに

  スキップのゆうこ

  その後をおう私

 

  野菜たちといると私は

  私でいられる

  私は野菜と自然体で対話できた

  野菜も私との対話をいつも心待ちにしているように感じた

 

  畑に入り一呼吸

  スーハー!気持ちがいい新鮮な空気が

  胸いっぱいに取り込まれて

  清々しい

 

  土の香り

  野菜の感情

  それが混ざり合って

  私は微笑む

 

  今日もありがとう

  いつも元気をくれてありがとう

  でもそれも明日で最後

  今まで一緒に三年間ありがとう畑の土

 

  そんな気持ちで私は

  土、そして野菜たちに触れる

  もう来ることもないかもしれない

  なぜなら私は遠い山奥に修行に行くからだ

 

  厚意にしてくれる

  山を何個も超えたところにある裏山のばあちゃんの里

  そこに行くことが決まっていた

  だからなかなか街に帰られない

 

  そんな薄ぼんやりとした実感は日増しだった

  ようこ!ようこ!!

  呼ばれて私は顔を上げる

  ようこ、また来るよね?この畑!

 

  ゆうこは勘が鋭い

  私の気持ちを感じてすぐに切り込んでくる

  ようこ、ここが好きだもんね

  この学校の畑

 

  そう、私のために、先生が設えてくれた

  特別な畑だった

  みみずたちが耕すこの土はふかふか

  そのみみずは裏山のばあちゃんたちが分けてくれた

 

  この畑は思い入れがあって

  本当は手放してしまいたくない

  その気持ちが強いけれど

  次の使用目的が決まっているそうだ

 

  きっと、素敵に使ってくれるだろう

  そう願っている私

  ゆうこも目を細める

  感慨深い

 

  あー

  明日は卒業式だ

  畑と野菜とゆうこと

  さよなら

 

  哀しくも寂しい別れの時

  ありがとう畑

  ありがとう野菜

  ありがとうゆうこ

 

  今までありがとう

  これから私は

  夢を叶える

  その一歩を踏み出す

 

  あらたな門出を祝うように

  早咲きの桜たちが

  風に撫でられて

  はなびらをふんわりと飛ばす

 

  一際大きな風が吹き飛ばす

  私の寂しさも不安も心配も

  私は生きていく

  明日も明後日もそのまた先も

 

  何度も卒業を迎える

  私たち

  卒業があるから

  出会いもある

 

  そんな気持ちを胸に

  私は前を向く

  歩き出した

  私たちは未来

 

  きらきらと輝く清流

  さんさんと輝る朝日

  そんな私たちは未来

  私たちは花弁の一枚

 

  そっと触れたたわいも無い1ページ

  けれど大事な一枚だ

  小説と似ていると私も思う

  一つの小説を書くかのように

 

  私たちの未来は繋がっていく

  最後に完成させた小説はどんな本なのか

  自分でも楽しみだと

  一枚の栞を挟み微笑んだ